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MY SOMG(頂き物)

タツミさんが以前出したYOUR SONGという
佐和ヶ原本の後日譚を左近サイドで書いて下さいました
本当にありがとうございました~~!




253.gif



アイツの手紙が届いてから五日が経った。

 恨みがましく何度もその名前を叫びながら、無我夢中で過酷な鍛練をしていた三成様も、
なんとかいつもの落ち着きを取り戻しつつあった。
けれどそれでもまだ、三成様は今まで以上に食事をとらないし、
夜もろくに休まず勉強や鍛練に没頭している。
 あのとき、気高く強かに見えた三成様の背中が、日に日に脆くなっている気がした。

「何度も言わせるな、左近。食事など必要ない」

 刺々しい口調で振り向きもせずに応えた三成様は、その苛立ちを表すかのように
大きな音をたてて書物の頁を捲った。 
 ここ数日くり返している不毛なやり取りに、俺は込み上げてきた溜め息を噛みころす。
温かいうちにと運んできた御膳は、四半刻経った今ではもうすっかり冷めてしまった。
 不機嫌な三成様を宥めすかす得策なんて、傾げた頭でいくら思考を巡らせても俺にはちっとも考えつかない。
情けないのと同時に悔しくて、俺はめげずに三成様の方へと御膳を寄せた。

「でもさぁ三成様、食べなきゃ身体が保ちませんよ? 昨日だって全然――」
「貴様の耳殻は飾りか? これ以上の愚案は許可しない! 即刻退去しろ!」
「……っ」

 大人しく反論を飲み込んで頷きつつ、俺は上目にちらりと三成様の背中を見つめた。
燭台の小さな炎が深い影を落とすその背中は、やっぱり前よりもずっと細く儚くて、
まるで幻のように消えてしまいそうだった。

「ねえ、三成様。今少しだけ、俺の話しを聞いてください」

 遮られるのを覚悟して話してみたけれど、三成様は何も言わずに分厚い書物と向かい合っている。
俺の言葉を聞いているのか、はたまた無視を決め込んでいるのか、
微動だにしない後ろ姿だけでは分からない。それでも俺は、膝に置いた握り拳に
ぐっと力を篭めて再び口を開いた。

「知り合いにね、太陽みたいな男がいたんです。
ソイツは底なしに優しいから、一本の綺麗な大輪よりも、たくさんの小さな花を照らしたんです。
太陽がいなけりゃ、いくら大きい花でも萎れちまう……そんなことくらい、アイツ自身も
分かっていたはずなのに。溢れた涙は雨で誤魔化して、自分は平気だって笑うんです。
とんだイカサマ野郎ですよ」

「…………」

「俺はね、三成様。正直アイツが羨ましかったんです。強くて、優しくて、慕われててさ。
すっげー悔しいけど、憧れてたんですよ。俺はまだ未熟で、アイツみたいにはなれないけど、
その大きな花が枯れないように水をあげる男になりたいんです」

 情けなくも滲んだ視界を拭って顔を上げれば、こちらを振り返っていた三成様と目が合った。
何も言わずにじっと俺を見る三成様の表情は、いつもの気難しいそれではなく、
驚きと戸惑いを色濃く浮かべている。

「お願いです、三成様。ちゃんと食べて、きちんと休んで、しっかり生きてください! 
アンタが居なくなったら、俺の希望も、未来も、全部消えちまうんだよっ……!
俺には、アンタだけなんだ!」

胸に溜まった不安を一気にまくし立てれば、眉を顰めた三成様は俺から顔を背けた。
重苦しい沈黙がずっしりと肩に押し掛かってくる。
それでも俺は、片時も目を背けずに三成様の横顔を見つめた。

「……、……痴れ者が」

 暫くの沈黙のあと、三成様は嘲笑混じりに呟いた。
長い前髪に隠れていたけれど、三成様の白い頬はほんの少しだけ赤らんで、
薄い唇は微かに笑みを零していた。

「寄越せ」
「え? あ、はい、どうぞ」

 顔を上げた三成様は御膳を引き寄せると、茶碗を手にしてご飯を口へと運んだ。
仏頂面のまま黙々と食べる姿がなんだか可愛くて、強張っていた俺の顔もいつの間にか緩んでいた。

「えっへへ。三成様、美味しいっしょ?」
「悪くない」
「あ、お豆と菜っ葉もしっかり食べてくださいね。好き嫌いしたらダメですよ」
「煩い」
「ひっで~! こんなに心配してるのに」
「知るか」



 眩しいほど晴れたあの日、子供のように小指を絡ませて、俺はアイツと約束をした。
その時のアイツの笑顔や穏やかな声は、今でもはっきりと憶えている。
三成様を見つめるときの、寂しそうな瞳の色も。
 俺は死ぬまで絶対に、三成様のお傍を離れない。
それはアイツと交わした約束だけじゃない。
俺が左近を名乗ったあの時から、すでに心に決めていたことだ。

「俺がいますからね」
「……?」

 小首を傾げる三成様に、俺はアイツに負けないくらいの笑顔を返した。
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